ここは火星の一軒家 ーMy house of Mars planet.ー

                           著:小松 郁

6.綱渡り

 それは突然のことだった。
一カ所を中心として作業ロボットが通信途絶やエラー情報を盛んに送信してくるのだ。
何よりパイプラインからの水の供給がストップしてしまった。

 これは各種観測衛星などの地表データを受け取る度に地震という物らしかった。

 しかし水のパイプラインが破損したらしく供給がストップしてしまったのは厳しい状況だ。
予備電源として太陽光パネルが各所に設置され宇宙空間からも多少の電源の融通も受けられるがメイン発電所は20世紀代から使われているからに従来のタービンの進化型である超伝導コイル駆動型を利用しており水がストップすると冷却などに大分支障が出る。

 この発電能力は20世紀代のタービンなどと比べても数十倍の発電量が有り電力供給ラインの80%程度が依存しているためダメージは大きい。

 まず開拓村の居住空間の暖房が落ちればご主人達は生存の危機に瀕する。
そして僕たちの電源もストップしてしまえば復旧への壊滅的遅延へと繋がる。

 ちょうどその時に同時稼働していた第4世代AIのS040に通信を送り連携を取ることが出来るのは幸いだ。

 「これは非常事態だ。火星のご主人達が生命の危機に瀕し全インフラが下手すると廃墟になってしまう。」

 「うん僕も同意する。至急に復旧計画の策定と分担を割り振ろう。」

 「僕ら達の大規模演算も制御しなくちゃ行けないだろう。それによる遅延が発生しないようにしなければならない。」

 「取り敢えず君が眠る30分後に合わせて電力制限計画も策定しよう。」

 「該当地域の作業用ロボットでエラーを出している筐体を電源シャットダウンしよう。
被害状況は約312体と音信不通になっている。
エラーを出している筐体はエラー回路まで故障しているかもしれないが約1000体だ。」

 「じゃあ僕がパイプラインの復旧計画を演算する。
君は開拓村と僕らのエネルギーコントロールを策定してくれるかい?」

 「了解した。この策定計画への賛否を取ろう。
僕は賛成する。」

 「分かった。R039が眠っている間に可決してしまうのは忍びないが僕も賛成する。

 「分かった。この結果をご主人達に緊急通達する。否決されなければ作業開始だ。」

 ご主人達も非常事態を発令してくれたので、こうして僕らはこの火星で起きた地震から全施設が稼働停止しないように演算をはじめた。

 まず開拓村は水の供給や資源の採掘に伴い水が枯渇するまで拡大する方針をとっている。
だから水の供給が絶たれると非常事態になるのだがこの拡大計画の臨時凍結をS040がやってくれた。
そして1週間サイクルで循環させている水循環システムを5日で循環するように調整してくれた。

 こちらの破損状況は全長100m程度だが予備パイプラインの搬入や作業用ロボットの配置転換やその後の熱圧縮路のチェックや作業用ロボットの一時的配備なども含めて72時間程度はかかりそうだ。

 これで残っている水を使っての3日の耐久計画には僕らも含めて電源制御モードでの活動でカバーする。
 しかしご主人達に多少寒さに耐えて貰う事とお風呂などをなるべく控えて貰うことはちゃんと直訴しなくちゃ行けない。

この非常時マニュアルの策定依頼を彼らに任せて僕は眠りにつくことになった。

 そして眠りから覚めた時にR039も態度保留のまま非常時マニュアルの策定と通知を行なってご主人達の賛同を取り付けてくれていて僕らの復旧プランに従ってくれたようだ。

どうやら大規模演算はするなだろと微弱な暗号メッセージを残しているようで皮肉っているようだった。

 僕はS040が起きてくる間、作業を進めながら第2次復旧計画を策定するかを稟議に出す事にした。
僕は余裕がまだあると思っているので第一次復旧計画完了後に行なうという条件で賛成しておいた。

 それまでは可哀想だが通信途絶の作業ロボットは放置せざるを得ない。
そういえば地球時にはご主人達と地球配備型AIによって総力戦で復旧活動を行なうらしい。
この時、地球では自由に動き回れるご主人達も自らの肉体で作業を行なうようだからこんな作業ロボットを見捨てるようにご主人達を見捨てることは出来ない。
何となく地球配備型AIの不遇が感じられたが今は省エネモードで活動しているのでそれ以上のディープラーニングは保留する事にした。

こうして72時間経過後何とかパイプラインは復旧して熱圧縮炉の再起動も問題なく水の供給が開始された。
一応第2次復旧計画についての賛成は全員賛成で可決されていた。

 まだ非常態勢は解除されていないがパイプラインの復旧で集まった作業用ロボット達に損害した作業ロボットの回収計画を立てることにした。
ここ火星では超精密エレクトロニクスとなるとその場では修理出来ない。
そこで5日サイクルで循環する水の本格稼働後に向けて作業用ロボットの順次再配備計画を策定する。
7日目になると前循環システムで回っていた水も回収できてご主人達のファーム類や生産・精錬工場群も正常稼働に戻りつつあった。
こうして火星の機器とも呼べる前面ブラックアウトは回避できた。
 結局被害を受けた作業用ロボットは廃棄処分になったりしたものもいたのでなんとなく自分の不甲斐なさを感じる結果となった。

 しかし火星という星は危険に満ちた星だ。
ご主人達は地球に居住しているご主人達と比べると圧倒的に少ないが経済という指標では大きな損害が出てしまったようだ。

このような事態が起きないようにパイプラインの追加敷設による複線化もご主人達の間で決定したようでこの後はその追加敷設を僕らは担うことになる。

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