大殺界

小松 郁

 僕たち2人はプロペラ飛行機に乗って彼女の実家がある離島に向かっていた。
それは僕たちの結婚を報告するために彼女の父親に会いにいくためだ。
僕は彼女静かに風に乗りながら操縦桿を握りプロペラ飛行機を南に向かわせる。
僕たちは初夏の心地よい風を受けながらひたすら広がる海の上を飛んでいた。

 彼女は少し虚ろな目つきで前方をただ眺めている。
僕は操縦に夢中になっていたので特に気にすることもなく目的の島を目指していた。
僕は頭には探偵帽にゴーグル、ツイードの3ピースにブーツという出で立ちだ。
彼女は真っ赤なドレスを着ている。

 飛行機は上方のプロペラエンジンをよく回転させながらスーと海の上を流れてゆく。
日差しは時折雲に隠れたり現れたりしながら鮮やかに空を染め上げている。

 この風景はいつまでも思い出すことになるだろう。
晴れの舞台でもあるし僕は彼女を愛していた。
こうして結婚することができたのは人生の最も幸せな出来事の一つだ。このラインより上のエリアが無料で表示されます。

 彼女はあまり喋らない。
空をボーと見つめている。
まるで空に祈りを捧げているようだ。

 それは僕のためだろうか?
果たして彼女の運命に関わることなのだろうか?

 彼女はラウンジの売れっ子の歌手だった。
彼女にはファンが多く僕も争って彼女にアプローチした。

 彼女は僕が彼女の影ある姿にベタ惚れになって告白して以来すぐに承諾してくれたし特に不平不満を言うこともない。

 なんだか僕は不思議な感覚だったが有頂天だったので特に気にすることもなかった。
それに愛用の飛行機もあるしこの飛行機を使った僕の商売は順調だ。

 何、夫婦と言うのはどんどんと一緒にいるうちにそれなりにこなしていけるものだと僕の父親、母親かららはその様子が窺えた。

 飛行機はリズミカルに心地よいエンジン音を鳴らしながら空を切ってゆく。

 彼女の父親というのはどんな人だろう。
この時代彼女の父親を説得するのも大変かもしれない。

 僕は入念にリハーサルをしていた。
これで僕の人生も新しく開ける。

 それはすごく気分を爽快にすることだった。

 色々と考えていると島々が群節する海域が見えてきた。
彼女のお父さんの島はあの島のうちのどれかだ。

 僕は彼女にどの島だろうと聞いてみた。

 彼女はふと我に帰るとそのまま進んで。もっと近づいたら私にもわかるわ。と答えた。
彼女は僕が父親に会うことになんの動揺も見せない。

 彼女はどんな人生を歩んできたのだろう?

 僕はあまり彼女のことは聞けなかった。
彼女は黙りこくってしまうのだ。

 色々と試作すると彼女はあの脇の島だわと彼女は指差す。
僕は飛行機を着陸態勢にして桟橋らしき物を探す。

 桟橋は海に突き出す形で木製の橋桁が拵えられていた。
僕はその周辺に着水しようと操縦桿を操作してスーと高度を落としてゆく。

そしてスーと桟橋の脇に飛行機を寄せ桟橋に渡れるように飛行機を操縦する。

 ふう着いたよ。
長旅お疲れさま。

 うん、でもこの島では少し気をつけてね。

 何を気をつけるんだろう。
毒がある蛇でもいるのだろうか?

 それは僕が守る役目だよ。

 僕は笑顔を彼女に送った。
彼女はボート僕の視線を捉えながらそうかもねと呟いたようだった。

 桟橋に上がってみると木製のホールのような大きな建物が僕を圧倒する。

 君はご令嬢なんだね。

 そんなことはないわ。多少隠れ住んでいるけどよ。

 僕は敷地に入るとお父さんはいないかと探し回った。

その様子を察したのか彼女は言った。

 お父さんは今頃寝てるかもね。

 そうなの?

 大丈夫、私の部屋に案内してあげるわ。
そこで一息つきましょう。

 彼女は僕を無視して敷地を横切り勝手口のようなものを開けた。
彼女に着いて僕はバッグを背負って続く。

 バッグには物騒だが軍用銃を短くカットしたものなども入っている。
こうしたものは未開の土地では必須だ。

 あとは多少の食料、医薬品類、着替えや包帯などが入っている。
僕は軍事的な仕事も請け負うのでこう言った装備を常時携帯している。

 彼女はここよと言うとドアを開いた。
そこは広く二人で寝ても大丈夫なようだ。

 食事は大丈夫?

僕は聞いた。

 ちょっと漁ってくるわね・

彼女はそう言って部屋を出て行った。

 やはり室内は年代物の置物や飾りが多い。
ロウソクのランプや古びたベッドと木製の机などが置いてある。
そこには目を引くものとして銀の拳銃などが壁に飾られていた。
あとは絵画だろうか?
男性の人物の肖像画が何枚も飾ってある。

 彼女の親類の肖像画だろうか?

そこには優しげな目つきでこちらに笑顔を向けている。

僕は床に適当に腰掛け灰皿を見つけるとタバコに火をつけた。

 ふうこの時間帯に寝ていると言うことは夜に挨拶になるか。
僕は腕時計を見た。
今はまだ4時ごろだ。

 飛行機の操縦で疲れたし少し寝てもいいかもしれない。
僕はタバコを吸いながら彼女の帰りを待っていた。

 しばらくすると彼女は何かが入った麻袋とワインのボトルを持って戻ってきた。

 乾燥肉とパンがあったわ・
ワインと一緒に食べましょ。

 僕たちはおお互いに分け合う形で乾燥肉とパンを食べワインで流し込んだ。
彼女は特に何も変化がなく乾燥肉とパンとワインを食べている。

 僕は少しお腹が膨れると彼女に話しかけた。

 ちょっとお父さんが起きてくるまで寝てようか?

 そうね、夜にならないと起きてこないかもしれないし一緒に寝ましょ。

僕たちはベッドに潜り込むと彼女の頭を僕は肘で腕枕にして目を瞑った。
そのまま僕は運転の疲れがあるのか寝てしまった。

 ふと起きると辺りは暗くなっていてロウソクに火が灯されている。
彼女はと探すと彼女は虚ろな目つきで出窓からの夜空をながめている。

 星が凶星だわ。

彼女は僕に気づいているの気ないのか呟く。

僕はわざと足音をたてる。

 起きてきたのね。
じゃあお父さんに会いに行くわよ。
覚悟してね。

 彼女の顔は半ば絶望したような顔つきだった。

 彼女は静かにロウソクの火をランタンに移すと着いてきてと僕を先導する。
よく見えないが屋敷内は非常にボロボロだ。
弾痕などもあちこちにあるように思われた。

 廊下を歩くとミシミシ音を立てる。
と、彼女は大扉の前に立った。

 じゃあ良いわね。

僕は頷く。

ギイと音を立てながら彼女は大扉を開ける。

 そこには大きなダイニングテーブルの上席で一心不乱に食料にありついている小太りの男の姿があった。

 彼はこちらをぎらりと睨む。

 何しにきたんだバカ娘。

 結婚するのよ。この人が相手。

 ふん、結婚などが許された身か?
まあ良い。
 客人、そこについて料理を食べたまえ。

 僕は言われた通り席について食い物に手を伸ばした。

 肉はうまいなあ。
特に生肉はなあ。

 父親はとろけるような目で僕の体を見ている。

 僕はなあに乾燥肉の方が腐らないですし効率的ですよ。
僕は色々な地域で商売をやっているんです。
色々な地域で美味しそうなものを見つけたら届けますよ。

と言った。

 ふん、ワシは今食事を楽しんでいるんだ。
余計なことは言わないでもらいたい。
 しかしこんな女のどこが良いんだ。
こいつはいずれワシを破滅させる。
 呪われた娘め。
勝手にこの男と結婚するなら二度と顔を見せるな。

 彼女は黙りこくったままお茶とパンとサラダを飲んで食べている。

 じゃあ彼女の結婚は許してくださるのですね?

 ふん、二度とワシの前に現れない事が条件だ。
こいつがいなくなればワシは・・・。

 父親は黙りこくってしまったので僕は食事をもぐもぐと食べていた。

 良いか。
これは契約だ。
お前らが勝手にやるのは良いがワシの前には顔を現すな。

 わかりました。

僕はどうしようもないと思いこの父親とはうまくやれる自信もなかったので承諾した。

 彼女は目をぎらつかせ始め、終わりよと密かに囁いたように聞こえた。

 それから1時間ぐらい立っただろうか?
僕たちはまた彼女の部屋に戻り眠ることにした。

 では失礼します。

僕は父親に挨拶した。

 ふん、早く去れ。

僕たちはまたランタンの灯りに導かれながら彼女の部屋に戻る。

 うふふ、あいつ焦っているわ。
今日が山場かもね。
あなた覚悟は出来てる。

 ああなんのことだい?

 まあすぐわかるわ。

とにかく寝ましょ。

 僕たちはまたベッドに潜り込むと彼女に腕枕して眠りに入る。

しばらく立っただろうか。
僕はうっすらと目を覚ます。

 彼女は腕枕の上にはいない。
と彼女はネグリジェのまま部屋を出ようとしているところだった。

 どこに行くんだい。

 彼女はしばらくこちらを眺めるとまたドアに向かい部屋を出て行こうとする。
心ここに在らずといったところだ。

 僕は飛び起き荷物のバックを背負うと彼女を追いかけた。

 そこは中空の廊下だろうか。

突然バリバリバリと木片が吹き飛ぶ。

 なんだ銃撃されている。

僕は必死で彼女をかばいながら廊下を駆け抜ける。

 その間も銃撃は間髪無く続く。

僕は体制を建てなおすことを考え銃撃している位置を推測してなるべく死角になりそうな位置に彼女を抱えて探す。

 必死に駆け抜けた。

 銃撃は無茶苦茶だ。
間髪無く銃撃してくるしそこらじゅう手当たり次第だ。

 僕は隙を見てランタンを吹き消して走ると銃撃はやや焦点を失ってそこら中の壁やテラスや天井などを吹き飛ばす。

 彼女は虚ろな目で完全に心神喪失状態だ。
僕はなるべく銃撃位置から資格に向けて猛ダッシュする。

 彼女を抱えながらの逃避行は結構辛い。
ただなんとか銃撃している側面から背後に回る事ができたようだ。

僕は屋根に柱に必死にしがみついて屋根に登る。

 あの父親か?

僕は銃撃ポイントを推察して屋根の端からそちらを望む。

そこには焚き火に照らされた父親がマシンガンをかまえておちらの変化を伺っているようだ。

 僕は決心した。
するとバッグからアサルトライフルを取り出しスコープで父親を覗き込み狙いを定める。

 父親の動きが止まった。

間髪入れず僕はライフルで彼女の父親を撃ち抜く。

弾丸は当たったようで彼女の父親の腹のあたりの肉片が飛び散った。

 父親は大声で唸り声を上げていると同時にマシンガンをこちらに向けて喜寿奏者しようとする。

 間髪入れず僕は今度は頭を狙い引き金をひく。

 父親は頭部を破裂させながら後ろにつんのめった。

 またさらに僕は続けて狙いもあまりつけないままライフルの弾を弾が切れるまで打ち続ける。

 父親は地面に突っ伏しながらライフルが撃ち込まれるたびにピクピク痙攣している。

と驚くべきことに彼女の父親は肉体がバラバラになりながら立ち上がりこちらに機銃掃射の構えに入る。

 いけない。ライフルの弾はない。それにライフルでは死なないぞ。

 また父親の方を見ると父親は体がどんどん肥大化して行ってる。
こいつは悪魔だ。
僕は確信した。

僕は急いで屋根を駆け下りると彼女を抱え覚えていた道を必死で辿り飛行機へと向かう。

 機銃掃射はいつまでも続いている。
時折近くの家屋の破片が吹き飛ぶ。

 僕は彼女を抱えながらひたすら必死だった・
と飛行機を止めた桟橋が見えてくる。

 僕は急いで彼女を助手席に乗せると僕は運転席に乗り込んでエンジンをかけた。
しかしそこに父親が機銃掃射しながら近づいてくる。
僕は必死で飛行機を父親の方に向けると飛行機備え付けの機銃を奏者する。
父親の方も機銃掃射してくる。

 しかし飛行機の機銃は協力だ。
父親の身体は輪郭もボロボロになるまで吹き飛んだ。

 僕は急いで飛行機を海側に向けると急いで離陸準備に入る。

父親はまだ呻いている。
生きているようだ。
信じられない。

 逃げるしかない。
僕は急いでっプロペラの回転数を上げ離陸に入る。

 なんなんだこれは。
僕は汗だくだった。
見ると彼女はすやすやと眠っている。

 ふう、飛行機が離陸した・
僕は一息ついた。

 彼女のことはよくわからない。
しかし多分これが僕の役目だったんだ。

若干白み始めている空を僕は北に進路をとる。

 しばらく立っただろうか。
いきなり背後から機銃掃射してくる。
見えないけど間違いない。
父親が追ってきているのだ。
僕は機銃が当たらないように回避運動を繰り返しながらそうすればいいのかと考えていた。

 と、背後からの機銃が右翼の翼に直撃する。
コントロールを牛なてしまう。
僕は必死になりながら近くの島に軟着陸を試みる。
その間にも機銃奏者は止まらず飛行機のところどころを吹き飛ばしてゆく。
僕は必死に湖東の島に向けて水面着陸して岸辺まで寄せた。

 と、追っての飛行機がこちらに向かって降下してくる。
僕はリュックからライフルを取り出しエンジン部分を狙って打ちまくる。

 と彼女が目を覚ました。
彼女はいよいよトドメを刺す時ね。
と胸から彼女の部屋にあった銀の拳銃を取り出す。

 僕はエンジンを狙ってライフルを打っっている中でそんなもので倒せるのかと彼女に聞いていた。

 なるべく近くにおびき寄せてちょうだい。
私も俺はなぜか当たる気がするの。

僕はやや銃撃を弱めながら父親の飛行機が速度を緩めるのを待つ。

 今だ!打て!

 彼女はもうすでに拳銃を構えていた。
と、彼女のピストルが火を吹く。

 その刹那、いきなり父親の飛行機は推進力を失って急降下した。
どしんと真っ逆さまに着陸して火を吹く。

 特に飛行機周辺でもう反応はない。
燃えている父親の飛行機に恐る恐る彼女と近づいて行った。

 そこには黒焦げになりながらまだ瀕死の息をしている父親の姿があった。

 ちー区ショーめー。
この腐れ豚女があ。

父親は呻いている。

彼女は速やかに父親の心臓に銀色の拳銃を当てると躊躇なく引き金を引く。

 うぎゃあああああああ。

父親はどんどん蒸発して黒い人の形の影になってしまった。

 なんなんだ、この状況は。
僕は息を荒げながら彼女に尋ねる。

 しょうがないの。
これは我が家に伝わる神殺しの儀式。
あなたも私と結婚生活送っているとこうなるかもね。

 僕は唖然としていた。
まさか。。。こんな化け物になるわけない。

 僕たちはしばらくその島で野宿しながら綺麗な星空を眺めて過ごした。
もちろんその間にも飛行機の修理はしている。

 ここに一緒に住もうか。

 そうね、それはあなたの運命だわ。

 うん、僕は君がいてくれれば良い。
またここに家を建てよう。

 うん良いわ。
でも私を忘れちゃダメよ。

 うんわかった。
星空は明るくミルキーウェイが漂っている。
ここはあまり寒くない。
それに僕はちょっと壊れてしまったような気がする。

 世の中には逃れられない宿命があるのよ。

 ふん、僕は受け入れるよ。

 良かった。

静かに波が打ち寄せている海岸で釣りをして得た魚を食べながら僕は悪の美徳に魅了されていくのを感じていた・

                                           
                                     完

出版
 オフィスプライマー

著者
 小松郁

発行日
 2019年4月1日

この物語はフィクションであり実在の人物・団体・事件・地名・出来事とは一切関係ありません。
本作品の一部、あるいは全部を無断転載・複写・複製・上映・放送・アップロードしたり、無断で紙へ印刷することを禁止します。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。

eighteen − seven =